『チェンソーマン』デンジとポチタの一体化・融合について分析する

『チェンソーマン』の主人公デンジは、チェンソーの悪魔ポチタと一体化し、悪魔の力を手にいれる。つまり、デンジは、半分人間で半分悪魔という人魔融合的な存在である。

このような、融合的な存在は、他のアニメでもよく登場するが、そのようなキャラは大抵、能力を手に入れる代わりに、性格が変わったり、何かを失ったりするデメリットが存在する。

では、デンジは半分悪魔になったことでどうなったのか?

この記事では、デンジが半分悪魔になった経緯や、その能力・性格の変化について分析し、その上で、デンジを、他のアニメの融合キャラと比較ながら、デンジの特徴を分析する。

 

デンジの融合の経緯

まず、デンジがどのような経緯で半人間半悪魔になったのかの経緯を軽く振り返る。

ポチタとの出会い

デンジの父親は、デンジが幼い頃に、借金を残して自殺してしまう。そして、父親が亡くなって早々に、デンジは、父親の借金の肩代わりをさせられ、ヤクザに、「明日までに70万返せなかったら殺す」と言われる。

そんなとき、デンジは、チェンソーの悪魔に出くわす。幼いデンジは、悪魔を前に、「どうせ(ヤクザに殺されて)死ぬんだ」と一度は生を諦めるも、その悪魔は負傷していた。デンジは「お前も死ぬのか?」と悪魔に問う。そして、その悪魔に、自分の血を与え、助ける。

デンジは、

「俺の血はただじゃねえ。これは契約だ。お前を助けてやるから、俺を助けろ」

と言って、一度は諦めた生を、デンジはポチタと共に、デビルハンターとして、生きることになる。

ポチタとの契約と復活

そうして悪魔のポチタとともに、極貧生活を続けるデンジだったが、ある日、血を吐いてしまう。そして、デンジは、母親が心臓の病気で血を吐いて死んだことを思い出す。

そんなとき、ヤクザがやってきて、デンジは、悪魔の出た現場に連れられる。だが、実はヤクザはゾンビの悪魔と契約しており、デンジは誘き出されたのだった。そうして、デンジはゾンビたちに殺されてしまう。

しかし、ポチタは悪魔であり、デンジの血で復活することができた。

そしてポチタは、

「私は、デンジの夢の話を聞くのが好きだった」

「これは契約だ。私の心臓をやる。代わりにデンジの夢を私にみせてくれ」

と言って、デンジを蘇らせる。

こうして、デンジはポチタと融合することで、半人間半悪魔の存在となる。と同時に、ポチタの能力であるチェンソーを使えるようになり、その能力を使って、ゾンビの悪魔を倒し、その後も数々の悪魔を倒していくことになるのである。

 

融合したデンジの特徴

次に、デンジと悪魔のポチタの融合の特徴を分析する。

融合するポチタ

見た目

まず、ポチタは小型犬のような見た目であり、かわいい。この見た目がかわいいというのは、異生物と融合するバトル系のアニメでは珍しいパターンだろう。

このポチタのかわいさは、この作品に、ポップな雰囲気を与えている。

デンジとの関係

デンジとポチタは、融合する前から、元々いい関係だった。デンジにとってポチタは家族であり、デビルハンターの相棒的存在であった。さらに、デンジは、自分が死んだ後のポチタを心配し、自分の体を乗っ取って使っていいとも言っていた。

このように、両親を亡くし、他に頼れる存在もいないデンジにとって、ポチタは唯一無二の大切な存在であった。

契約

デンジとポチタは、相棒や家族のような関係ではあるが、人間と悪魔であり、両者の関係の根底には、契約が存在する。

人間と悪魔の契約は、この作品において重要な存在であり、片方が守ったらもう片方も守らなくてはならない。もし、守らなかったら、命を失うのだ。

つまり、一見すると、仲良しでいい関係のデンジとポチタには、お互いの命を賭ける契約があるのであり、これが両者の関係を強く結びつけると同時に、緊張感を与えてもいる。

融合のメリット

異生物と融合するパターンにおいて、欠かせないのが、能力の獲得である。

デンジは、チェンソーの悪魔であるポチタと融合することで、チェンソーを出して戦えるようになった。これは、大きな武器である。この武器によって、デンジは、今までの極貧生活を抜け出し、公安所属のデビルハンターとしてまともな生活を送れるようになる。

また、意外と見過ごされがちだが、デンジは、母親を心臓の病気で亡くしている。その母親は、吐血して亡くなったのだが、デンジも同じように、吐血していたのである。つまり、デンジもまた、心臓に問題を抱えており、そう長くはもたなかった可能性がある。

そう考えると、ソンビに殺されたことで、ポチタの心臓をもらったことは、結果的にデンジを救ったともいえるだろう。また、おそらく、ポチタとの融合で、売り払った臓器も回復していると考えられるので、それも融合によるメリットだろう。

融合のデメリット

大抵の場合、異生物と融合すると、デメリットがある。特に、人間らしさが消えていくというのが、代表的なデメリットだ。

だが、デンジはそもそも、まともな人間ではない。ネジが外れている。ゆえに、半分悪魔になっても、大した問題はなさそうである。それに、ポチタは、もともとペットのような友好的な存在であり、悪魔に乗っ取られて、自我を失い、凶暴化するといったようなデメリットはない。

融合によるデメリットではないが、能力の制限はある。

デンジがチェンソー化するときに、大量の出血を伴う。そのため、長時間、チェンソー化を続けることはできないという問題はある。だが、これも、無限の悪魔との戦闘においては、相手の血を飲み続けるというネジのぶっ飛んだ解決策で、3日間も戦い続けたため、大したデメリットではないかもしれない。

 

他の作品における融合

ここでは、デンジのように、非人間の異生物と一体化・融合するパターンの作品を挙げ、比較してみる。

①寄生獣

『チェンソーマン』のデンジの融合と、最も近いのが、『寄生獣』だと思われる。

『寄生獣』では、主人公の泉新一が、寄生生物に体内に侵入されるも、何とか全身を完全に乗っ取られることを阻止し、右腕のみを寄生生物に支配されるにとどめる。その後、新一は、この取り憑いた寄生生物(ポチタ同様意思疎通可能)をミギーと呼び、協力して他の寄生生物と戦っていく。その過程で、新一は、心臓を貫かれ瀕死に陥るが、ミギーが新一の心臓の代わりとなって、新一を復活させる。

『寄生獣』の新一が、『チェンソーマン』のデンジと共通する点は、両者ともに、戦闘で瀕死になり、異生物が心臓の代わりとなって、復活させ、その異生物の能力を継承する点だろう。

これを抽象化すると、

①異生物が、主人公の味方として、生命の危機を救う

②異生物が、主人公の生命維持の根幹=コアの代わりになる

③主人公が異生物の能力を継承する

という構造になる。

この構造の場合、異生物が主人公の命を救い、その上で、主人公のコアとして同化し、戦闘をともにするため、主人公と異生物が深い関係になりやすいといえる。

ただ、『寄生獣』の場合、異生物と融合することで、新一が人間らしさを失っていくというテーマが主軸に置かれている。このテーマは、前述したように、『チェンソーマン』においては、ほとんど見られない。

②東京喰種

『東京喰種(グール)』の場合、前述した構造とは異なる点がある。

『東京喰種』にでは、主人公の金木研は、喰種のリゼに襲われ殺されそうになったところで、偶然、金木とリゼが事故に巻き込まれ、金木が重傷、喰種は死亡する。そして、金木は医者の手によって、喰種の臓器を移植されてしまい、喰種と融合してしまう。

つまり、構造としては、

①異生物は、主人公と敵対している

②両者の意志に反して、第三者によって、融合させられる

③結果、主人公は、異生物との融合によって生命を維持する

④主人公は融合に葛藤しつつも、異生物の能力を継承する

この構造は、主人公が異生物と融合することで命が助かる点と、異生物が主人公のコアとして同化する点は『チェンソーマン』『寄生獣』と共通だが、異生物と敵対している点と、融合が第三者によって行われる点では、異なる。

言うなれば、敵対的融合であるといえる。

ゆえに、融合した後、金木は融合した事実、自分が喰種になった事実に苦悩することになる。

しかし、喰種になり、喰種として戦闘を重ねていくなかで、融合した喰種のリゼの能力を徐々に使いこなしていき、あるきっかけで、リゼと対話することになる。両者が友好的な関係になったとはいえないだろうが、協力関係にはなったといえるかもしれない。

その他

その他、『呪術廻戦』や『鬼滅の刃』など、比較できる作品は多いが、長くなるので、別の記事で扱う。

 

『チェンソーマン』における融合まとめ

『チェンソーマン』におけるデンジとポチタの融合は、ポチタがデンジを救い、さらにデンジに悪魔と戦う大きな力を与えることになった。

その際に、デンジは、何かを失うことはない。そもそもネジがぶっ飛んだ存在だったからというのもあるが、人間らしさを失い、悪魔になってしまうということもない。

ポチタは、デンジがポチタを助けたときのように、「契約」によって、デンジと融合する。この契約は、上述したように、重要で緊張感のあるものではあるが、よくあるような力と引き換えに何かを要求するものではなく、「デンジの夢を見せてほしい」というものだった。

このデンジにとってむしろ望むところである契約をポチタが提示したのは、ポチタがデンジにとって相棒であり、家族のような存在であったからだろう。

このように『チェンソーマン』で描かれるデンジとポチタの融合は、デンジとポチタの友情によるものであり、その融合は、デンジが自分の夢を追い求める新たなステップを踏み出すという非常に肯定的なものなのである。

そう考えると、多くの他の作品が、主人公が異生物との融合の負の面と向き合い、どう解決していくかという「マイナスをゼロにする」ようなテーマを扱っているのに対し、『チェンソーマン』では、デンジのポチタとの融合をポジティブなスタートとして描いており、ここに、『チェンソーマン』の作品ならではの楽観性やポップな雰囲気が表れていると言えるだろう。