ここでは、『チェンソーマン』のアニメ第8話「銃声」について、その内容をまとめて、特に面白いシーンやテーマについて、分析・考察をしつつ、面白さを語っていく。
内容まとめ
このアニメ第8話『銃声』は、大きく二つのパートに分けられる。
前半:姫野の誘惑
まず、前話で描かれていた飲み会後に、姫野がデンジを背負って、姫野宅へと帰宅するシーンから始まる。
姫野は帰宅し、服を脱いで、下着になった後にビールを飲む。そして、姫野は、ベッドで寝たままのデンジに、ビールを口移しする。
そして、姫野がデンジに、「しちゃう?」と聞き、姫野は、デンジの服を脱がせ始める。デンジは、マキマのことを考え、葛藤する。
「しちゃっていいのか?マキマさんとするはずだったファーストキスを、ゲロで汚した女に、その女に、初めてを奪われていいのか?」
デンジは、「よし」と言い、期待に満ちた目をする。姫野は、ズボンを脱がそうとする。
すると、姫野が、デンジのズボンのポケットから、チュッパチャプスを取り出す。そこで、デンジは、飲み会でのマキマとの会話を思い出す。
デンジ、マキマとの会話を回想する。
デンジはマキマに、「この先、キスするたびに、ゲロの味のファーストキスを思い出すんじゃないか」と言う。
マキマはデンジに、「一生それは忘れない。でも、この先、いろんな初めてを味わう」。そういってチュッパチャプスをデンジの口に入れて、
「とりあえず、ファースト間接キスは、チュッパチャプスのコーラ味だね」
と言う。
結局、デンジは、姫野とせずに終わる。
「初めては、マキマさんがいいんだ」
翌朝。姫野と朝食をしながら会話。
デンジとマキマ、姫野とアキが付き合えるように、同盟を結ぶ。そして、二人は友達関係になる。
姫野:
「たとえば、マキマさんの性格がクソでも好き?」
デンジ:
「クソ好き」
デンジ:
「あいつ(アキ)のどこ好きなの」
姫野:
「顔」
後半:謎の男女との戦闘、姫野の死
マキマは新幹線で京都へ向かっている。すると、新幹線内の乗客が一斉に気を失う。そして、マキマと同行者は、何者かに銃で撃たれる。
ノイズのかかった場違いな明るいBGMのみで、音声なし(対位法的な手法)。公安のメンバーが、善良そうな一般人に銃で撃たれていく。一般人は、明らかに様子がおかしく、操られているように見える。
デンジ、パワー、姫野、アキで昼食中、デンジの借金取りをしていたヤクザの孫?が絡んできて、戦闘になる。
「銃の悪魔は、でめえの心臓が欲しいんだとよ」
デンジ、男に頭を撃たれる。姫野は、重症。
アキ、狐に男を食わせる。
「私の口に、とんでもないものを入れてきたね。人でも、悪魔でもない」
男は、頭と両腕が刀のようになった姿で現れる。
アキ、呪いの悪魔の力で、男を殺す。
謎の少女が突然現れ、男に手をかざすと、男は復活する。
復活した男は圧倒的強さで、アキは絶体絶命になる。
姫野は使役する悪魔「ゴースト」に、
「私の全部をあげるから、ゴーストの全部使わせて」
と言い、ゴーストと男の戦闘が始まる。姫野は、ゴーストに体を使わせている影響か、腕がなくなり、徐々に体を失っていく。
その間、姫野のモノローグ。
「アキくんは泣くことができる。デビルハンターは、身近な死に慣れすぎて、涙が出なくなる」
「あれだけ想って泣いてくれたら、嬉しいだろうな」
「アキくんは死なないでね。私が死んだときさ、泣いてほしいから」
戦闘終了したときには、姫野の体が消滅していた。そして、ゴーストは、謎の少女が出現させた蛇のよって倒された。
分析
①酔っ払った描写の細かさ
家に帰った姫野は、ふらつきながらも、服を脱いで、おそらく顔を洗って、そのままビールを飲む。
このシーンでは、姫野のふらつく感じ、鼻歌を歌うところなど、姫野の酔っ払った感じが細かく描かれている。特に、洗面所の鏡越しに服を脱ぐところは、扇情的に描かれている。
また、洗面所のコップと歯ブラシや、冷蔵庫の中の作り置きや調味料、数々の酒などが描かれており、生々しい生活感を感じる反面、家具が少なく、やや殺風景な部屋に、月光が差し、カーテンが風で揺れていて、どこか超現実的な雰囲気もある。
この二つの相反する雰囲気の融合が、姫野を、あるいは、初めてコトに至ろうとする際の、独特の妖しさを引き立てている。
②姫野がデンジにせまる
ここもめちゃくちゃ細かく描かれている。
まず、姫野がデンジにまたがり、ビールを口に含むまでを姫野の一人称視点で写し、その後、口移しのシーンを、接写したり、ビールが床に垂れる映像を写したり、ベッドに面している丸型の大きな窓から差し込む光と一緒に引きで写したり、魚眼レンズ風に写したり、デンジの角度から写したり……とにかく、こだわりを感じる。
そして、姫野が「しちゃう?」と囁き気味の声で言い、デンジがビクッとして床のビールが倒れる。そこで、オープニングに入る。この流れも、キマっている。
その後、姫野がデンジに、バンザイをさせ、「いい子、いい子」と連呼しながら服を脱がせていく。
ここのアンビバレントな雰囲気、コトに至ろうとする真剣味と、酔っぱらいゆえの、あるいは姫野の性格ゆえのおちゃらけた感じ。どこか気が抜けつつ、しかし、その行為に向けて確実に進んでいる感覚。この描写も見事である。
③デンジ、断る
デンジは、見たところ、ほぼしようとしていた。「よし」と言って目を瞑っているくらいだし。期待に満ちた目をしていたし。
そこで、姫野がチュッパチャプスを取り出す。そして、「汚ね」と言う。これは、多分、視聴者に「お前が言うな」と言わせるギャグシーンなんだろう。ちょっと性的になりすぎたシーンを中和させている。このあたりも細かい面白さがある。
そして、デンジは昨夜のマキマとのやりとりを思い出す。そこでデンジは、マキマが舐めていたチュッパチャプスを咥え、ファースト間接キスをする。
ここで面白いのは、ファーストキス→ファースト間接キスという順番である。キスを最初にして、後で間接キスをしている。言い換えれば、より刺激の強い、段階の進んだことをした後に、その手前のことをしている。
これは、明らかにマキマによる「上書き」を意図しているだろう。前回、胸を揉んだときも、パワーで失望したあとに、マキマで取り戻している。
ここのあたりは、単なる肉体的な接触としての性的な行為と、精神的なつながりのある行為の違いを対比させているのだろう。
④本心を晒さない姫野
姫野は、言ってしまえば、軽い女と見られてもしかたない言動をしている。アキのことが好きなのに、デンジを連れ帰り、誘い、翌朝には何も覚えてないし、アキの好きなところは「顔」と言う。
だが、姫野は単なる軽い女ではない。
極限の状態で、いつも死と隣り合わせなデビルハンターという仕事は、普通の神経ではやっていられない。でも、姫野は、根は普通の人だ。だからこそ、神経を狂わせる、岸辺の言葉で言えば、「ネジをゆるめる」必要があったのだろう。
姫野は、だらしなく、奔放に見える。だが、姫野はそのだらしなさ、奔放さで武装し、心の表面を守っていたといえるだろう。そして、心の奥底は純粋でまっすぐなままなのだろう。
仮にデンジが許していたら、姫野は最後までしたのか、それはわからない。
だが、姫野は、デンジとしようとしたとき、眼帯を外さなかった。これは、心を守るベールのメタファーとしても読み取れる。そして、アキのことが好きな本当の理由をデンジには明かさなかった。つまり、本心を晒さなかった。
このことから、姫野という普通の人間、生身の人間の、弱さや儚さ、そして、心のまっすぐさ、強さ、健気さ……そういったところが伝わるのである。
⑤姫野のアキへの想い
姫野は、アキを庇って、自分をゴーストの悪魔にささげる。
普通に考えれば、好きな人を命をかけて守ったように見える。もちろん、その面もあるだろう。
だが、姫野の最後のモノローグを聞くと、姫野は、自分よりもアキに生き残って欲しかったことがわかる。そして、その理由が、涙が枯れた自分の死を、誰かの死を泣けるアキに泣いてほしいから、である。
死を泣いてほしいために犠牲になる。これは、自己犠牲なのか、自己中心的なのかはわからない。けれども、姫野の死には、確かに苦い気持ちにならざるをえない。それほど、姫野というキャラクターは、リアルさを感じさせるのである。
謎
以下のことが、謎として残されている。
・姫野がマキマを「クソ女」と言う理由は?
・銃の悪魔と操られていそうな人たちの関係とは?
・敵対者の謎の男と女は誰か?どんな存在か?
まとめ
第8話は、盛りだくさんの一話だった。
この回の主役は間違いなく姫野だ。前半で、姫野に対し、もしかしたらネガティブな感情を抱くかもしれない。だが、後半で、あまりにも突然死んでしまうことに対して、喪失感を覚えずにはいられないだろう。
みんなで飲み会をして、デンジとの一波乱があって、友達としてやっていこうとしていたところで、死んでしまうというこの唐突なストーリー展開は、デビルハンターの過酷さを物語るものでもあるのだろう。