中田敦彦氏の動画『高市首相と中国・台湾』の問題点【批評】

11月30日、お笑い芸人でYouTuberの中田敦彦氏が、高市首相が台湾有事に伴う存立危機事態の可能性を発言した件について、動画を出した。[1](動画リンク)

動画を観たところ、その内容について、疑問をもたざるをえなかった。具体的には、

①中田氏のスタンスが動画内でブレているのではないか?

②中田氏の主張には偏りがあるのではないか?

という点である。

そこで、本記事では、この中田氏の動画について、分析し批評していく。

 

中田氏のスタンス

この動画における中田氏のスタンスは、以下の発言の通りである。

「フラットな目線で、どちらに肩入れすることもなく、皆さんがただニュースをしっかりとわかってこれからに備えられる授業」(00:00:50-00:01:00)

「真正面から、できる限り中立に、できる限り詳細に、尺の関係なく」(01:06:40-)

「大事なのは国民が理解して選択すること」(01:07:06-)

つまり、どちらの論調に加担することなく、フラットに、公平に、それぞれの主張の根拠を、時間的制限をもうけずに、解説するということだろう。

そして、動画の最後で、視聴者、国民に選択を促していることから、中田氏は、選択のための情報を提供し、あくまでも選択は、それぞれの個人に委ねるというスタンスなのだと思われる。

 

動画の内容まとめ

以下、ざっくりと動画の内容をまとめる。

高市氏の発言の経緯

予算委員会での高市氏と岡田氏のやりとりの解説。存立危機事態の解説。

日本政府が、過去50年間、曖昧にしてきた台湾と中国の関係、そして日本の武力行使の可能性を、初めて首相が明言した。

中国の怒りの例

それに対する中国側の怒りの反応の紹介。中国政府の人間の諸々の発言の紹介。観光自粛と水産物輸入禁止。

高市氏のコア思想

高市氏の思想の紹介。高市氏は、タカ派かつネオコンである。著書で、「台湾を第二の香港にしてはならない」と明言。

つまり、この発言は、高市氏のコアの思想であり、簡単にスタンスは変えないだろう。

中国と台湾の関係・歴史

台湾の現体制が誕生した経緯の解説。

台湾の選挙を中国が妨害したとき、アメリカが空母を送った。それを屈辱に思い、中国は軍事力を高めてきた。

2027年に、中国が台湾を攻め落とせる軍事力をもつだろうというアメリカのレポート。

未来予測

高市氏は、発言を曖昧に戻していっている。トランプ氏も曖昧な発言。

問題は、高市氏が発言を撤回するか否か。中国は撤回しろと言い続けている。

現状、高市氏の発言によって、経済的損失がでているし、撤回しないと、中国が制裁を強化し、損失が膨らむ可能性が高い。

ただでさえ円安で物価高なのに、中国からの輸出が止まったら、より物価高騰の可能性がある。

高市氏の強気な発言で、日本国民のプライド満たされ、支持率も高いが、一方で、経済的損失が増え、物価高が進むけれどそれでいいのか。

 

中田氏の論調

中田氏のこの動画での論調は、一言で言うと、

 

高市氏の発言で、国民のプライドは満たされるかもしれないが、国益を損ねることになるけどいいのか?

というものだ。

 

まず、中田氏は動画において、高市氏の発言に対して、以下のような表現をしている。

・グレーな戦略を「逸脱」した(00:17:19)

・50年来、国のトップが「守ってきた」ラインをついに、「飛び越えた」(00:20:18)

・ついに存立危機事態の具体例として台湾と中国の問題に言及して「しまった」(00:49:41)

これらの言葉選びから、中田氏が、高市氏の発言は、誤った判断であったと考えていることがわかる。

また、動画の最後のチャプターである「未来予測」では、

 

・当時のサッチャーのやり方を今行うことは、正しいのか

・積極財政+中国制裁によって損失が出て、物価が上がって生活が厳しくなる

・プライドを守るのはいいが、それは国益になるのか

・支持率は高いが、この問題に誰も気づいていない

 

このように発言しており、明確に発言しているわけではないが、

高市氏の存立危機事態に対する発言は誤りだったし、発言を撤回するべきだ

という論調であることは間違いない。

 

ツッコミどころ

①中立なのか?

中田氏が、動画冒頭と末尾で、自身のスタンスを「中立」「フラット」と言っていたが、本当にそうだろうか?

この動画は、中田氏が、自分の意見を主張するための構成になっていなかっただろうか?

それは、上述した論調に加え、高市氏が発言したこと・発言を撤回しないことのデメリットしか挙げていないことから推測されうる。

仮に、「中立」の立場で、「フラットな目線」で、人々が選択するのための情報を提供するということを目的にするならば、高市氏の発言によるメリット、あるいは、高市氏的スタンスによるメリットも同様の尺で解説すべきだろう。同様に、発言を撤回しないことのデメリットを言うならば、撤回したときのデメリットも言うべきだろう。

 

また、自分の意見を主張しながら、中立でいることはそもそも可能なのか?

意見を主張する、すなわち、どちらが正しいか・望ましいかを明確化することは、片方の主張の正当性を主張することで、それは中立とはいえないのではないか。

それとも、中田氏の言う「中立」とは、中立的な視点で考えて結論を出すということで、考える過程における中立なのか。そうだとしても、自身が片方の正当性を主張している以上、動画自体の中立は保てないのではないか。

もちろん、意見を言うのは自由である。だが、中田氏は、自ら「中立」、「フラット」であると言っており、このことと動画の内容が、自己矛盾しているのではないかと思う。

 

②意見だとしても、問題はある

上のツッコミは、中田氏のスタンスが矛盾しているのではないか?というものだが、以下、中田氏の意見に対するツッコミをする。

①本音と建前の混同

そもそも、本動画に限らず、今回の高市氏の発言をめぐる議論は、2つのテーマが混同していると思われる。それは、本音と建前の混同である。

 

本音のところで、台湾侵攻に軍事介入すべきなのか、つまり発言するかどうかは別にして、そういう心算でいるべきなのか

外交戦略上、建前で、表面上は曖昧さを保ち続けるべきなのか

 

この二つは、分けて考えるべき問題である。

本動画においては、この区別が言及されていないので、中田氏の意見が、本音と建前どちらのレベルの話なのかがわからない。

つまり、本音のところで、本質的に高市氏の存立危機事態の認定が間違っていると言っているのか、それとも、外交戦略上、本音ではそう思っていても、発言をすべきでなかったと言っているのかが不明なのである。

②善悪について触れていない

ゆえに、この問題の最も本質的なテーマである

中国が台湾を武力で併合しようとすることに、正当性はあるのか?

に対する中田氏の意見が不明なのである。要するに、中国の武力侵攻は善か悪かについて触れていない。

仮に中国に正当性があるのならば、この問題は、中国の内政問題になる。反対に、仮に正当性がないのなら、台湾への不当な侵攻になる。

高市氏の発言もそれに対応して、正当性があるのなら、内政干渉的側面が強くなるし、正当性がないのなら、秩序維持・救援的な正義の側面が強くなる。

そのため、まずはこのどちらの立場なのかを表明しない限り、高市氏の発言を、本質的に批評することはできないはずである。

③経済的利益のために脅しに屈するべきなのか

②の延長だが、中田氏が強調するのは、発言を撤回しないことによる経済的な損失だ。物価高もそれに含まれる。つまり、経済的に損だから、高市氏は、発言をしないほうが良かったし、撤回したほうがいいと主張している。

これはつまり、相手の善悪に関係なく、こちらが損をするならば、相手の言うことを聞け、という主張になる。つまり、脅しに屈しろと言っていることになる。

仮に、中国に正当性があるならば、中国が日本を脅すことに正当性があるのだから、それに従ったほうがいい、という議論は可能だろう。

だが、仮に中国に正当性がないのだとしたら、この主張は、経済的な利益のために、正義を曲げて、相手に屈しろという主張になる。それは先進的な価値観を標榜する日本として、ふさわしいのか、という問題がある。

少なくとも、正義と利益のどちらを取るべきかという議論をするべきだが、動画では触れられていない。

④今後も中国に忖度し続けるリスクに触れていない

中田氏は、中国を怒らせた結果の現在の損失と、今後予想される損失を考慮していたが、本当に中立的立場に立って考えるならば、反対に、中国と付き合い続け、忖度し続けたときの損失についても動画において論じるべきだろう。

実際、そのリスクについては、石破前政権がかなり浮き彫りにしていたはずだ。なかでも特に、アメリカとの間で、関税や安全保障、そもそもトランプ氏と会談ができないなどの問題が生じていた。また、中国への接近を強めると、民主主義的価値観を共有する国々との連携が薄れるという問題も生じるだろう。

また、グレーでありつづけることのリスクも当然存在する。グレーでいるということは、中国に対する牽制が働きにくいという側面もあるだろうからだ。それは、領土拡大を公然と掲げる中国に、日本の領域を狙う隙を与えることにもなりかねない。

 

結論

結論としては、中田氏の動画については、

①中立であると宣言したからには、中立であることに気を遣ったほうがいい

②意見を主張するならば、反対の立場の意見にも触れたほうがいい

少なくとも、議論の前提をはっきりさせ、その上で、両方の立場で、メリット・デメリットを解説しない限り、中田氏が自らの意見を説得させるには、不十分であろう。

本動画を超えて、そもそも、今回の高市氏の発言については、

本音と建前を区別した上で議論したほうがいい

以上が私の意見である。

 

注釈

[1]【高市首相と中国・台湾】高市発言と中国の怒り…台湾の歴史と日中の未来予測を徹底解説 (Prime Minister Takaichi and China and Taiwan)