人にはコンプレックスがある。ない人もいるかもしれないが、多くはある。そして、どうにかして、コンプレックスを克服し、解消したいと望む。
たとえば、自分の顔にコンプレックがあるとして、そのコンプレックスを解消するには、二つの方法がある。
自分の顔を変えるか、コンプレックスを感じる自分を変えるか、である。
前者は、顔にコンプレックスを感じる自分の価値観は変わっていない。変わったのは自分の顔で、コンプレックスを感じないような顔になったのである。だから、顔が元に戻れば、再びコンプレックスを感じる。
後者は、自分の顔は変わっていない。ただ、顔にコンプレックスを感じない自分になったのである。つまり、顔に価値を感じなくなったのであり、価値観が変わったのだ。
この二つの解決策のうち、どちらが根本的な解決だろうか。それは、おそらく、後者の価値観を変える方だろう。
なぜなら、コンプレックスとは、ある種の強迫観念のようなもので、他人からしたらそこまで気にするようなことではないことを気にしてしまっていることが多いからだ。だから、根本的なコンプレックスがなくならない限り、また気になることがでてきて、コンプレックスが再燃しかねないのである。
では、コンプレックスを解消するために、価値観を変えることはできるのか?できるとしたら、どうすればいいのか?
コンプレックスの原因
問題を整理する。
まず、何らかの潜在的にコンプレックスを抱きうる対象がある。たとえば、容姿とかである。そして、その対象にコンプレックスを抱くような価値観をもつ。その結果として、対象にコンプレックスを抱く。
ここで言えるのは、コンプレックスの対象、たとえば容姿は、コンプレックスを抱く前は、単なる容姿であって、コンプレックスとは関係がないということだ。
それをコンプレックスだとみなすような価値観を抱くようになって初めて、対象がコンプレックスになるのである。
つまり、コンプレックスの根本の原因は、価値観にあるのである。
価値観を変えることはできるか?
コンプレックスは、価値観をもつことで生まれる。そして、価値観は後天的に形成される。
後天的に価値観が作られるのであれば、価値観はすでに決定されているのではなく、作り変えることもできそうである。
ただ、問題点がある。
一つ目は、コンプレックスとなる価値観は、頭の中で思考によって形成されるものではなく、感情に根差したものであることだ。思考によって導かれ、形成された価値観は、合理的なものだ。つまり、理屈によって説明でき、理屈によって制御できる。理屈の通らない価値観は、そのまま捨て去ることができる。
だが、感情に根差した価値観は、不合理である。不合理であるということは、理屈が通じない。ゆえに、それが正しくなく、合理的でないと分かっていながら、その価値観を捨てることができないという厄介さをもつ。
二つ目は、最初に形成された価値観を作り変えることが難しいことである。一度身についてしまった習慣がなかなか変えられないように、一度身についてしまった価値観を変えることは難しい。
三つ目は、ネガティブな価値観は、変えにくいことである。コンプレックスとなった価値観は、ネガティブな価値観であり、ネガティブなものに人は流されやすい。また、人から言われたネガティブなことは、記憶に残りやすい。それは、心の傷になるからだ。
このように、価値観が後天的に作られる以上、変えられるだろうが、変えるのが難しい面もあるのである。
価値観を変える方法
では、どのようにしたら価値観を変え、コンプレックスを解消できるか。
その方法は、二種類に分かれる。一つは、感情的な方法、もう一つは、論理的な方法だ。
感情的な納得
まず、感情的な方法を紹介する。
前述したように、コンプレックスとは、強迫観念的なものでもある。ゆえに、いくら頭で「そのコンプレックスは意味がない」と理解しようとしても、解消するのは難しい。つまり、論理的に自分を説得しようとしても意味がない場合が多い。
であれば、感情的に解決することが有効だろう。たとえば、今までコンプレックスに思っていた対象について、他人から素直に褒められることで、あっさりと解消されることがあるだろう。
重要なのは、相手が本心でそう思っていると自分が直感できたときである。そして、その相手が、パートナーなどの自分にとって関係の深い相手だとより良い。
この方法は、コンプレックスについて、心の底から「気にする必要はない」と思えなければいけない。ゆえに、なかなか自分一人ではそう思えないので、他人の力を借りる必要がある。
そのため、相手がいないといけないというハードルがあるが、相手に一言言ってもらうだけなので手軽な方法ではある。
客観視
これは、コンプレックスをもつ自分を、そのまま客観視する方法である。コンプレックスを無理に解消しようとすると、むしろ、そのコンプレックスのことを考えてしまい、執着してしまう。
であれば、一度コンプレックスを感じる自分を、自分から切り離して、客観視することが有効になるだろう。要するに、一段上の立場から自分を見るのである。
具体的には、自分がコンプレックスを感じ、感情的に反応してしまったなら、そのように反応している自分を、メタ的に捉えるのである。
たとえば、コンプレックスを感じると、辛いという感情に支配される。この感情に支配された状態で、同じ次元で対処してもうまくいかない。そうではなく、一段上から、「今自分は辛い感情にある」というように自己認識する。
すると、コンプレックスに対して、感情ではなく、認識によって対処することができるようになる。つまり、心の問題から頭の問題に切り替えることができるのである。
こうすることで、コンプレックスが引き起こす直接の感情を消すことができなくとも、「コンプレックスを感じたときの感情」に対しては、対処することができるようになるだろう。
これは、アスリートが緊張に対処する方法と似ている。大舞台で緊張することは避けられない。だが、緊張している自分とうまく付き合い、結果的に緊張による影響を減らすことはできるのだ。
まとめ
コンプレックスを根本的に解決するには、それを生み出す自分の価値観を変える必要がある。だが、コンプレックスになるような価値観は、感情と結びついており、不合理で、理屈で変えることができない。とすれば、感情面で別の価値観に上書きするか、感情を理屈に引きずり出すしかない。
この考察を通して、自分ではコントロールできない感情面での自分、そしてコンプレックスとの向き合い方のヒントを得られたと思う。