昨今、政治家が批判されている。確かに、彼らに批判されるべき点があることは間違いない。
しかし、そのような政治家を選んだのは国民である。つまり、批判されるような政治家を生み出しているのは、国民自身であるということになる。
実際、政治家のレベルは、それを選んだ国民と同じレベルであるという言説がある。これは、政治家が愚かであるのは、国民、すなわち日本人が愚かであるからだ、ということを意味することになる。
その一方で、日本人の美徳や優秀さを評価する言説も存在する。日本の治安の良さや秩序は日本人の性質によるものだとするものだ。
この二つの対立する言説から導ける結論は、日本人は愚かだとか優秀だといった言明は、事実を単純化しすぎており、正確ではないということだ。正しくは、ある場面では優秀であり、別の場面では愚かであるとするべきだろう。そして、そこには、優秀さと愚かさに分化しうるような日本人特有の根本的な性質があるのではないかと思う。
そこで本記事では、ある場面では秩序をもたらし、別の場面では愚かな政治家を輩出する日本人の性質について考えてみる。
日本人の気質
空気を読む
「空気を読む」ことは、おそらく日本人的な気質の顕著な特徴だろう。
ではそもそも、「空気を読む」とは何なのか。その本質は、「言わなくてもわかる」ことにあるだろう。
日本人に限らず、たとえば不幸があった人の前で不謹慎な話題は避けるといったことはする。これも「言わなくてもわかる」、すなわち暗黙の了解でその話題を避けている。つまり、空気を読んでいる行為だ。
こうした空気を読むことは、文化の差なく誰でもすることだ。その上で、空気を読むことが日本人に特徴的であるとしたのは、その度合いである。日本人は、かなり高度に空気を読むのである。
それはマナーや風習に表れているだろう。マナーや風習は、なんとなく空気を読んで行っていた行動が、共通認識となり、不文律となったものといえるだろう。そして、その細かさを見れば、空気を読み合い、気を使い合うという日本人の気質が理解できる。特に、ビジネスマナーや飲み会の風習を思い浮かべればわかりやすいだろう。
不文律の文化とガラパゴス化
このように、空気を読みあう不文律の文化においては、はっきりと言葉で伝えることが少なくなる。何となく互いに察し合い、言葉にしないで関係を維持していくようになる。
このような関係の構築は、うまくいく関係もあれば、そうでない関係もある。
うまくいく場面として考えられるのは、プライベートな関係だろう。恋人同士の関係で、互いのことを理解するにつれ、言わなくても相手の考えていることがわかるようになることがあるだろう。そのような関係は、より親密な関係といえ、うまくいく関係だろう。
逆にうまくいかない場面としては、会社などの組織だろう。空気を読み、暗黙の了解や不文律で運営をするということが、会社などの組織において生じると、その組織は、明確な意志ではなく、何となくの雰囲気で動くことになる。もちろん完全に非言語的な了解だけで運営されるわけではないだろうが、その領域が広がっていくことになる。
すると、組織内の関係や仕事内容が硬直化する。その結果、閉鎖的で変化の難しい独自の体制が出来上がってしまうことになる。いわるゆガラパゴス化である。
恋人関係などのプライベートな関係であれば、閉鎖的でガラパゴス的な関係はむしろいいかもしれない。だが、組織運営でいえば、これは問題である。
ガラパゴス化の問題点
内向きの組織
まず、ガラパゴス化の問題点として、組織が内向きになる。
内向きの組織とは、自らの組織の現状維持が目的となった組織のことである。そのような組織は、組織内部においても、外部に対しても問題が生じることになる。
組織内部の問題
まず、組織内部においては、現状維持が第一となり、不文律や慣習が横行するようになる。そのような不文律は、慣習だからというだけの理由で保たれる。そのため、組織本来の目的が忘れ去られることになる。
次に、不文律や慣習は暗黙の了解として蔓延るため、言葉によるコミュニケーションが滞る。その代わりに、暗黙の了解によって、人々が動くのだが、こうなってしまうと他の人やセクションの仕事に対して、口を挟みづらくなる。なぜなら、他の人やセクションは独自の慣習を持っているからだ。こうして、組織内部の組織もまた内向きになり、不文律や慣習が増えていく。
このような不文律と内向き化のサイクルは、組織を細かく分離させ、それぞれを孤立させていく。そして、他の組織に対して、排外的になる。「うちはうちのルール」といったことが横行するようになる。
組織外部に対する問題
まず、組織が内向きになると、排外的になる。これは、組織内部の組織が内向きになり排他的になるのと同じ原理である。自分たちには自分たちのやり方があるとして、体制の現状維持に終始することになるのである。
このようなことを続けていると、組織が外部からズレることになる。まさにガラパゴス化するのである。
こうなると、ますます組織を変化させるには大きな力が必要になる。なぜなら、ガラパゴス化しているということは、外部とのずれが大きく、変化の振れ幅も大きいからである。
問題を抱えた企業は、このようにガラパゴス化し、自ら変化することができずに、最終的には存続を揺るがすような問題が生じるというケースが多くある。
愚かな政治家を生み出す構造
以上、日本人の気質と、それが組織にもたらす帰結について論じた。
まとめると、
空気を読み合う→暗黙の了解になる→不文律・慣習が支配的になる→組織が内向きになり、現状維持に走る→組織の外部に対して排外的になり、ずれに気づかない→ガラパゴス化
というようになる。
こうしたサイクルによって、日本のあらゆる組織が硬直化し、自己保身に走ることになる。その結果、内輪の利益しか考えなくなり、排外的になり、利権が発生する。そして、その組織の利権を取りまとめる政治家が誕生する。
このような構造によって、全体の利益のためでなく、個別の組織の利益を求める「愚かな」政治家が生まれるのである。
そして、この問題は、このような内向きの組織を作り出す日本人の気質によって生じており、それは「空気を読む」という気質の帰結であると思われる。
この問題の解決策として根本的なものは、空気を読む気質を放棄することであるが、これは難しい上に、空気を読むことで生じる日本人の利点も放棄することになる。
そのため、ある意味で日本人の宿命的な問題であり、根深い問題だと言えるだろう。