老害についての考察—なぜ地位にしがみつき続けるか—

老害という言葉が最近流行っている。それは、老害と呼ぶに相応しい人が社会に多くみられるからだろう。

老害と呼ばれる人の最も顕著な特徴は、いつまでも地位にしがみつき、辞めないことにあると思われる。その一方で、ある程度の年齢ですっぱりと引退し、後進に譲る人も少なからずいる。

この記事では、この差は一体どこにあるのかを考えるために、まず、地位にしがみつくことのメリットを考える。そして、そのメリットの問題点と、地位によらずにそのメリットを得る方法を考え、老害化を回避する方法を見つけようと思う。

 

地位にしがみつくメリット

地位にしがみついているということは、そこにメリットがあるということだ。そのため、まずは、そのメリットを考える必要がある。

居場所がある

地位や役職があると、そこに居場所があることになる。居場所があるということは、やることがあるということだし、人間関係があるということだ。このようなやることや人間関係は、地位が与えてくれる重要なものだ。

人はやることがなく、暇であることがつらい。それゆえに、疲れるのがわかっていながら、充実を求めて休日に出掛けたり、わざとスケジュールを埋めて忙しくする。暇については、『暇と退屈の倫理学』という本にて詳しく論じられている。

人間関係についても、築くのは難しいが、人が求めるものである。孤独であることを好む人はいるが、全く人間関係をもたないことを好む人はいないだろう。

このような「やること」や「人間関係」を用意し、与えてくれるものが地位や役職である。そのため、これを手放したくないのも納得できる。

肩書きがある

地位や役職は、肩書きをくれる。

その肩書きは自分が何であるかを証明してくれるし、自分が何であるかを与えてもくれる。つまり、他人に対して自分を担保できるし、自分自身に対しても自分のアイデンティティを与えてくれる。

これもまた、自分で自分に与えるのが難しいものである。会社などの組織によって与えられることで、他人や自分に対して、自分を証明できる。

立場を保てる

地位や役職があると、肩書きが得られるのと同時に、立場を得ることができる。それは主に、他人に対して、優越的な立場を得ることになる。これもまた、地位や役職に固執する理由であろう。

 

地位にしがみつく問題点

地位にしがみつくことのメリットは、これ以外にもあるかもしれない。だが、これらに共通して言えることは、どれも組織によって与えられているものである。

たとえば、居場所や人間関係、肩書き、アイデンティティなどを与えてくれるのは組織であり、それらを保つために地位や役職にしがみついているという現状がある。

このように、組織が与える利益を目的として、その組織にしがみつくことは、組織全体にとってマイナスである。また、当人にとっても組織依存は不利益をもたらすだろう。

よって、これらのメリットとされることを組織から与えられるのではなく、自分で作り上げることが必要になる。

 

脱地位の方法—個人主義

地位にしがみつき老害化することを避けるためには、上記したような地位が与えるものを、自分で作り上げることが必要だろう。

居場所や肩書きを組織に用意してもらっているということは、自分のアイデンティティを組織に依存しているということだ。脱地位をするためには、このような依存状態から自立することが必要となる。

そのためにはまず、個人主義的な精神をもつことが必要だろう。個人主義というと孤立的なイメージを与えるかもしれないが、ここでの個人主義は、他のものとの関係のなかにあっても、自己の拠り所を個人に置くという意味である。つまり、自己と他のものとの関係の見直しが必要なのである。

組織との関係

まず第一に、個人と組織との関係において、個人主義的である必要があるだろう。

上記のような居場所や立場を組織に用意してもらい、自分はそれに甘んじるだけというのでは、自己の拠り所・アイデンティティは完全に組織に依存することになる。これはつまり、組織が自己を規定しているということである。

このように組織に自己を依存させてしまうと、その組織から離れられなくなる。なぜなら、その組織こそ自己であるからだ。

そうではなく、自己が主体的に居場所や立場などを形成する。主体はあくまでも自己にあって、自己に属する性質として組織による立場や地位があるという状態にする。

こういった自己と組織の主客の関係が必要であると思われる。

他者との関係

第二に、個人と他者において、個人主義的である必要があるだろう。

地位や立場に固執する理由には、肩書きを得ることや、立場を保つことがあった。これは、他者に自分をアピールすることによって、自分を認めてもらいたいという欲求があるからだろう。

地位や立場を他者にアピールし、他者に自分の価値を認めてもらうこと、そして他者に対して優位であろうとすること。これらは、自分自身が何者であるのかについて、他者からの評価を必要としているということである。つまり、自己の形成を他者の評価に依存しているということだ。

これに対しても、上記と同じように、自分自身についてどう評価・認識するのかについての主体性を自己自身に取り戻す必要があるだろう。

 

まとめ

この記事において、一般的な名詞として「組織」と書いた箇所は、そのまま「会社」に置き換えることができるだろう。それほど会社という組織が個人の人生に深く関わっており、個人は会社に依存的になっているという現状があるだろう。ゆえに、会社から離れられず、会社から与えられるものからも離れられない人間が老害化するのである。

これに対する解決策として、根本的には個人主義の思想が必要だろうと思われる。

人は何かに属さずには生きていけない。だが、何に属するのかを主体的に選択していくことが個人主義の本質だと思う。