『#真相をお話しします』「ヤリモク」のストーリーまとめ、伏線・面白さを解説する

この記事では、『#真相をお話しします』の第二話「ヤリモク」について、

・ざっくりストーリーをまとめ、

・面白さについて語り、

・ストーリーを構造化しつつ、詳しく伏線とその回収をまとめる

という構成で進めていく。

 

この記事を読むことで、『#真相をお話しします』の「ヤリモク」がどういうストーリーなのか、どこが面白いのか、伏線は何なのか、といったことがわかるようになる。

では、さっそく、本作について語ろう。

 

ざっくりまとめ・要約

まず、本作をざっくりまとめる。

本作は、一言で言えば、美人局と殺人犯の騙し合いである。

登場人物は主に二人。若い女のマナと、妻と娘のいる男「僕」である。

この二人がマッチングアプリで出会う。そして、僕がマナの家に上がり込む。だが、マナはどこか不審な点がある。僕は、シャワーを浴びながら、出会ってからの記憶を辿り、騙されていたことに気づく。

シャワーを出ると、マナは屈強な男と一緒にいて、マナが美人局だったことが判明する。僕は、彼らに脅されるが、僕は隠し持っていたナイフで彼らを殺害する。

僕は、実は、娘にマッチングアプリでのパパ活をやめさせたいがために、マッチングアプリ殺人をしていた殺人犯だったのだ。

そして最後、僕が犯行を終えたところで、男の携帯に娘の名前と同じ名前からメッセージが届く。そこで本作は終わる。

面白さのポイント

本作の第一の謎は、マナの正体である。

なぜ、彼女は酔ったふりをしているのか?

僕は、「お持ち帰り」できたと喜んでいるが、罠なのではないか?

読者は、まずこのように考えるだろう。

だが、注意深い読者はひょっとしたら、「僕」に対しても何か違和感を覚えるかもしれない。実はあんまりマナのことをよく思っていないのでは?と思われる描写がいくつかあるからだ。

そして、僕は部屋で男と対峙し、まんまと騙されたことがわかる。ここで、マナの正体が美人局であることが判明する。

ああ、やっぱりマナは騙していたか。と、多くの読者は思うだろう。というのも、マナの言動が怪しいことは、はっきり描写されていて、「疑ってください」と言わんばかりだったからだ。

だが、マナの怪しさにばかり目が行っているところで、実は、僕が『マッチングアプリ殺人』の犯人だったことが明かされる。

ここのミスディレクションのような構成・組み立てが、本作の肝であり、一番面白いところだろう。

そして、最後に男の携帯に、From Miyukiからのメッセージが来る。

もしかして、美雪も実は美人局の一員で、これから鉢合わせしてしまうのでは?

となったところで話が終わる。この怪しい雰囲気を残して終わるところも、本作の何とも言えない読了感を与えてくれ、面白い。

 

内容構造化

時系列

本作は、構造化すると、上の図のように6つに分けられる。

以下、それぞれのシーンの内容と伏線をまとめる。

 

シーンA:マナをお持ち帰り

 

内容

主人公である「僕」には、妻と娘がいる。

だが、僕は、マッチングアプリで出会った女性「マナ」と一緒に飲んで、そのままマナの住むマンションに上がり込む。内心で娘に謝りながら。

伏線

マナ:

・マナは酔っ払っているような感じで振る舞っているが、実際は酔っておらず、僕は、マナの「背筋がうすら寒くなるほどの冷めた表情」を見ている

・マナは、自分の部屋に着いたとき、先に入って片付けるということもなく、そのまま僕を中に通す。

僕:

・マナが体を押し付けてきたときに、「ほとほとうんざり」している。そして、同じことを娘の美雪がしていたら「不愉快すぎて吐き気すら催す」と思っている。

・マナの部屋で、「朝までこの部屋ですごす気はさらさらない」と思っている。

他:

・僕が、マッチングアプリで出会った回数を「7回目」と答える。

・部屋が殺風景で、ベッドは綺麗にメイキングされている。

・枕元に投げ出された電源タップ

 

このように、お互いに何か別の意図があるのか?という違和感がある。

 

シーンB:回想 美雪がパパ活?

内容

僕は、携帯の通知を確認する。すると、妻から、「美雪が今日も友達の家に泊まる」という内容のメッセージが来ていた。

そのメッセージで、僕は回想する。美雪が自室に高価なブランドものをたくさん持っていること。そして、妻がマッチングアプリらしきものをやっている美雪を見たこと。

美雪は「パパ活」をしているのではないか。そう考えざるを得なかった。

伏線

・美雪は大学3年生

・美雪は、高価なピアスを失くしている。

・妻「どうしたら、(マッチングアプリ・パパ活を)やめさせられるかしら。直接注意しても言うことを聞かないだろうし

 

この伏線が最終盤に回収される。

 

シーンC:シャワーでの違和感

内容

いきなり、マナは僕に、「シャワー浴びてきたら?」と言う。

あまりにも直球な誘いに、僕は困惑し、マナもそれを察したのか、バツが悪くなるが、僕は、そのままシャワーを浴びる。

シャワーの中で、僕は何かうまくいきすぎているような違和感を覚える。そして、今までのことを振り返ってみることにする。

伏線

マナ:

・いきなりシャワーを促してバツの悪くなったマナが、ウォーターサーバーでお湯を注ぐ

僕:

・まだ「最後の大仕事」が残っているが、あとは流れ作業みたいなもの、と思っている

『マッチングアプリ殺人事件』の話題が出たときに雲行きの怪しさを感じる

その他:

・洗濯機のなかに、乾燥を終えたタオルが2枚ある

・ヘアセット用のストレートアイロン

・シャワーヘッドの高さを下げる

 

こうして、伏線だけを抜き出すとわかりやすい。原文を読んでいる人も、勘の鋭い人なら、どこかおかしいことに気が付くだろう。

そう、明らかに、この家には、マナ以外の誰かが住んでいるのである。

 

シーンD:回想 マナとの出会いの振り返り

内容

僕は、マナと待ち合わせたときからの記憶を遡る。

待ち合わせに現れたマナはアプリのプロフィール通りの容姿で、そして、「美雪にそっくり」だった。というのも僕は、毎回、美雪に似ている女性を選んでいたのだ。今回は、かなり似ていることで、僕のモチベーションは上がる。

僕とマナは、2件のお店に行って、酒を飲む。飲みながら、軽くお互いについて話す。途中、『マッチングアプリ殺人事件』の話題で、雲行きが怪しくなるも、概ね順調に「お持ち帰り」できた。

伏線

飲んでいるときの二人の会話にも、伏線が多くある。

マナ:

・今朝寝坊して、家を飛び出してきた

・Sカールというカールした髪型

・寝坊したため、お湯を沸かす時間がなかった

寝ている間に洗濯・乾燥を必ず行う

・日常生活はまじめで几帳面そうだが、住所を教えたり、ボディタッチが多く、ガードが緩い

・寝ている間に充電ケーブルが絡まる事件を心配

僕:

・マナに、「そんな発言、お父さんが聞いたら泣いちゃうよ?」

・体目当てなのに、ボディタッチに興醒めする

・マスターに顔を覚えられるリスクを減らすために、初めての店に行く

他:

・マッチングアプリで出会った女の子を殺害する事件の存在

・被害者はこれまで6人

・被害者は全員20代前半

・現場に、『マッチングアプリ利用女子懲らしめ隊参上』というメッセージ

 

ここまでで、全ての伏線が登場した。こうして伏線のみを抜き出すとわかりやすいが、物語では、自然な会話の流れでこれらが登場している。

 

シーンE:確信 リビングでの対峙

内容

僕はシャワーでの回想を終え、違和感の正体を確信する。そして、今が「極めて危険な状況」と判断し、半裸で腰にタオルを巻いたまま、ズボンから「必要なもの」を取り、玄関のドアチェーンをかける。

そうして、僕はリビングの扉を開ける。そこには、マナと、もう一人、屈強な男がいた。男は、僕の身分証の類が一切入っていない財布と、そのなかに入っていた娘のプリクラを物色していた。

男は獰猛な目つきで僕を睨み、マナも醜悪に歪んだ顔で見てくる。そんな彼ら二人相手に、僕は、謎解きを始めていく。

シャワーヘッドの位置が高すぎたこと。今朝、寝坊して、お湯を沸かす時間がないといっていたが、この部屋にはお湯の出るウォーターサーバーがあること。洗濯機の中に、バスタオルが2枚しかないこと。他にも、しっかりとベッドメイキングがされている点や、マナの髪はカールしているのに、この部屋にはストレートアイロンしかないこと。等々、悠長に話していく。

苛立つ男が、僕に対し、娘のプリクラを突きつけ、娘と同い年くらいで、かつ、見た目もそっくりな女を狙っていることに、「クソキモいぞ」、「さっさと死ねよ、このヤリモク野郎」と言う。

そこで、僕は、ズボンから取り出しておいたもの=ナイフを振るい、男の喉笛を切り裂く。「ヤリモクでも殺るほうなんだ」と言って、男にとどめを刺す。

そして、マナに向かって、「やめさせたかったんだ」と話し始める。僕は、わざと娘と同じような女性を狙うことで、娘にパパ活をやめさせたかった。だから、『マッチングアプリ利用女子懲らしめ隊参上』というメッセージを残し、マッチングアプリで出会った男に殺されたことを知らしめていた。

そうして、僕はそのままマナにナイフを振るった。

伏線

ここでは、今までの伏線が一気に回収される。

なぜ、マナのお持ち帰りはこんなにスムーズだったのか?

なぜ、マナの部屋には多くの違和感があったのか?

なぜ、僕はマナの体にさほど興味がなさそうだったのか?

マナは実は「美人局」を仕掛ける犯罪グループの一員で、マッチングアプリで騙した男を家に連れ込み、そこで、仲間の男とともに、入手した個人情報を人質に、金銭を強請っていたのだ。

そして、「僕」はというと、娘に似た女の子をお持ち帰りしたい激キモいヤバいやつではなく、娘のパパ活をやめさせたいがために、マッチングアプリで娘似の女の子を殺して回る別のベクトルでヤバい男であったのだ。

 

シーンF:美雪からのメッセージ

内容

僕は、シャワーを浴びて血を落とし、忘れ物がないか部屋の中を確認する。

ふとベッドの下を覗き込むと、ピアスが落ちていた。

そして、男の携帯が鳴る。そこには、「今から部屋を使いたい」というメッセージが、Miyukiという名で届いていた。

伏線

シーンEにて、すべての謎が解き明かされ、物語は終わったかに思えた。いわば、オチはついたのだが、最後のピアスとメッセージの存在によって、「この後の僕がどうなるのか」、「本当に美雪がここに来るのか?」という含みをもたせて、この物語は終わる。

 

まとめ

本作は、シンプルながらも、あっと騙されるような作品であり、非常に面白い。

そして、上で解説したように、伏線も巧妙に張られている。

また、謎だけでなく、「お持ち帰り」するときのやりとりや、店での雰囲気もまた臨場感があって面白い。

このように、本作は、短いながらも非常に読み応えのある作品であり、おすすめできる作品だ。