Kindle UnlimitedというAmazonがやっている電子書籍のサブスクサービスがあります。月額1000円弱で、対象の書籍が読み放題というものです。
私はこのサービスを利用していて、よく作品をダウンロードするのですが、ダウンロードしたものの、読んでいない本や読みきっていない本がかなりあることに気づきました。書店で買った本にも、積読状態の本は多くあるのですが、体感的にはUnlimitedでダウンロードした本の方が、未読率が高いような気がします。
今回は、なぜUnlimitedの方が未読率が高いのかという疑問を解決するために、まずは、人がモノを買うときと、それを利用するときの心理について考え、そして本題に戻るという構成をとります。
人がモノ・サービスを買う原理
まず、そもそも人がモノ・サービスを買うときには、どのようなことを考えているのでしょうか。おそらく、以下のような比較がされているのではないでしょうか。
期待満足度>コスト(期待満足度がコストより高くなると買う)
期待満足度は、人が何かを買おうとするときに、「これを買ったらどれくらいの満足が得られるだろう」と期待する度合いです。
たとえば、レストランだったら、このメニューはどれくらい美味しいのだろうか、すなわちどれくらい満足できるのだろうか、という予想です。
コストは、それにかかるコスト全般です。内訳は、金額と心理的ハードルに分けられるでしょう。
カニ料理で考えると、確かにカニはおいしそうだが、1万円すれば、躊躇するでしょうし、ものすごい食べにくそうでも躊躇するでしょう。前者は金額のハードルで、後者は心理的ハードルです。
この不等式が成り立てば(=期待満足度の方が高くなれば)、人はそれを買うということです。
ニ種類の購買動機 期待満足度が高いかコストが低いか
コストはかならずゼロより上
どんなモノ・サービスも、期待満足度がゼロの場合は、売れません。なぜなら、モノは場所をとるし、サービスを受けるには時間がかかるからです。つまり、不等式の右辺のコストは、原理的にはゼロにならないのです。
したがって、期待満足度は、コストを上回るために、必ずゼロより上でなくてはなりません。
コストの上回り方
このコストを上回る方法は、大きく分けて二種類あります。それは、期待満足度優位か、低コスト優位かです。
期待満足度優位
期待満足度優位の場合、コストが高くなるのは許容して、それを上回るだけの満足度を期待させます。
たとえば、高級レストランで食事をするとしたら、金額は当然高くなるし、ドレスコードやマナーを守らなければならないので、心理的なコストも高くなります。しかし、コストがあるにもかかわらず、そこで食事をするということは、それを上回る期待満足度があるということです。
低コスト優位
低コスト優位の場合、可能な限りコストを減らし、購入時のハードルを下げます。
値引きやサンプルといった販売戦略はこれにあてはまるでしょう。
両者の性質の比較
期待満足度優位の場合、それなりのコストが要求されます。そして、コスト(値段、時間、手間、心理的ハードルなど)が高いため、それを購入する際、かなりのモチベーションがなくてはなりません。それは、わざわざそのコストを払うだけのエネルギーであるといってもいいでしょう。そのため、期待満足度優位のモノ・サービスを購入する人は、最初からそれなりのモチベーションがあり、主体的な選択をした可能性が高いです。
一方の低コスト優位の場合、購入者はコストが低いことに釣られた可能性が高いです。これはつまり、モノやサービスの価値・期待満足度ではなく、モノやサービスがいかに低いコストだったかということに注目した可能性が高いということです。となると、そのような購入者は、その購入したモノやサービスに対して、さほどのモチベーションや、主体性をもっていないことが推測されます。
購入時と消費時の隔たり
また、モノやサービスがその場で消費されるのではなく、購入時と消費時が異なる場合もあります。
たとえば、本がその典型です。本を買うときと(=購入時)と、その本を実際に読むとき(=消費時)には時間的な隔たりがあります。(元から買うことだけを目的とし、読むつもりがない場合は、購入と消費が同時になる)
他には、公演が数ヶ月後のコンサートや、日程の決まったツアー旅行もこれに該当するでしょう。
この場合は、期待満足度は購入時と消費時で変わりませんが、コストの方は変化し得ます。
購入時のコスト
購入時に、実際に支払われるコストは、それを買うのに必要な金額だけです。当然、それを買った以上、それを消費する際のコスト(心理的ハードルや労力、時間など)は想定しているわけですが、実際にそのコストが支払われるのは、消費時のみです。
消費時のコスト
消費時、つまり、実際にそれを利用するときには、想定ではなく、実際のコストがかかります。本であれば、それを読むという時間や労力がかかります。この想定されていただけのコストが、実際に要求されるのが、消費時なのです。
この実際にコストがかかるという事態が、想定に比べて重かった場合、消費をしないということになります。本であれば読まない、旅行であれば行かない、というようになります。
結論:なぜKindle Unlimitedの方が未読率が高いのか
以上のことを踏まえると、Kindle Unlimitedのほうが未読率が高い理由がわかります。
それは、
1, 書店で本を買うときの方が、多くのコストがかかっている=それだけ期待満足度が高い
2, 本という商品は、購入と消費に時間的隔たりがあり、消費時には購入時に想定されていたコストが現実にかかることになる。
書店で買った本は、より高い期待満足度があるのに対し、Kindle Unlimitedの方は、読み放題ということもあり、さほど期待満足度が高くなくてもダウンロードする
以上より、書店で買う本の方が、コストが多くかかっているため、期待満足度が高くなりやすく、消費時(=読むとき)のコストを上回りやすいといえます。
これが、書店で買った本に比べて、Kindle Unlimitedに未読率が多い理由だと思われます。
もっとも、モノやサービスの期待満足度は、コストを超えていれば良いので、仮にコストが少なくても、期待満足度が高いということはあり得ます。しかし、一般的には、コストが高いモノやサービスは、確実にそれを超える期待満足度があるので、期待満足度がより高くなる傾向があるといってよいはずです。